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管理人の食卓風景と日常の日記
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午後4時前、いつものように仕事をしていると、突然、「火事だぁ!」との声が聞こえ、近所で火事が出たのかと思い、外に出てみると隣の建物の玄関からオレンジの炎が火炎放射器のように、屋根と窓からはもうもうと煙が噴き出していた。瞬間、僅か数秒であったと思うが、私と職員数人はからだが凍りついたように固まり、身動きができなかった。
ハッと我に返り『119番!』と叫ぶが、周りの人間はきょとんとした表情で、今何が起きていて何をしなければならないのかの判断ができない様子であった。業火を見た瞬間に、思考回路が停止してしまったようだ。自分でさえも、声はかろうじて出たが足は動かず、火の中から飛び出して来る人間と、玄関前に置かれた、多分引火性の物質が入ったドラム缶を、火から避ける位置に必死で移動させている姿を呆然と眺めていた。
院内に戻りかけると、危機を知り消火訓練通りに消火器を脇に抱えて看護師が走って来たが、消火器で対応できるレベルの火勢ではないことを告げ、急いで入院患者を非難させるために病室へ戻るよう言い、受付で119番通報したことを確認し、事務員の一人に院内の火災通報装置のスイッチをオンにして、病院中の職員と入院患者の家族に火災が発生したことを通知させた。急ぎ各階に行き、火元に近い病室の患者から一番離れた場所へ避難させるように大声で指示し、病室に取り残された患者の有無を確認して回った。
看護師、介護職員と居合わせた患者の家族の速やかな行動により、病院建物中央にあるエレベーターと階段を使い、全入院患者の避難は瞬く間に完了した。ある患者は支えられながらも自力で、ある患者は寝たままベッドごと、大多数の患者は車椅子のピストン輸送で二つ離れた棟の玄関に集結した。
私、看護主任、事務長、管理課員は手分けして、病院内に案内した消防隊員と共に、病室やトイレに逃げ遅れている人はいないかを確認し、万一に備えて防火扉をすべて閉鎖した。看護主任は、入院患者が確実に避難できたかを確認し、人数の把握を行い消防隊に報告した。一人の患者が不明である事が発覚したが、自宅に連絡をしたところ、病院に居合わせた家族が、自宅が病院の近所であった事から、自宅へ連れて帰っていたとわかり、事なきを得た。
出火当時、往診先にいた院長は、隣家の火災発生を知らず、病院方面からの煙と消防車の動きから、病院の近所あたりが火災ではないのかと往診車内で会話していた。病院に近づくにつれ、火と煙が自院からのものと見分けが付かず、携帯電話で病院に連絡をしようとしても不通のままであった。病院の目の前に来た時には、消防が消火活動をしており、あたり一体には警察が非常線を張っていて、病院長であると言っても車の進入は許可されず、下車して急ぎ駆けつけてきた。
院長は、到着した時にはほぼ入院患者の避難は完了しておいた事に安堵し、危機を知って駆けつけてくれた近隣の医療関係者に、一時的な入院患者の受け入れと退避場所の提供を要請した。一部の入院患者が安全な棟で待機した他は、10人が救急車のピストン搬送により他院へ移送され、残りの患者は道路を挟んだ向かい側の医院に一時退避する事ができた。
出火より約2時間後に、消防隊隊長が顔をススだらけにしながら来院し、火はほぼ鎮圧した事、延焼の危険はなくなった事、入院患者を病室に戻しても問題ない事を報告し、病院職員の迅速な避難行動と消防隊への協力に対し感謝の言葉を述べて、すでに後始末を始めた消防車の方へ戻って行った。
院内に入り込んだ煙と臭いにおかげで、しばらくは使えそうもない病室はあるが、非常事態と言う事で、病室ではない空き部屋や3人部屋に4人入ってもらうなどの工夫をして、他院へ移送又は一時退避していた入院患者に戻ってもらう事となった。そのうち、一人の患者の家族が、今夜は自宅へ連れて帰りたいとの申し出があったため、院長許可によりそのようにしてもらう事とした。他院への移送は救急車で行ったが、帰院時は車椅子やストレッチャーを搬送できるワゴン車を持つ民間の施設が協力を申し出てくれ、それを数回往復させてすべての入院患者を再び当院に収容した。
出火約3時間後の午後7時、いぶっていた煙もほとんど消え、警察が火元の現場保存のための準備を始め、また、残念ながら今回の火事により犠牲になった三人の方の遺体の搬送が終了した。まだ非常線が張られたままであったが、徹夜で現場を監視する警察官と消防官、そしてその車両数台を残しほぼ撤収を完了した。
午後7時半頃、自販機の飲み物、近火見舞いの差し入れの飲み物、院内もほぼ落ち着いた事で急激に空腹感に襲われ始めた職員のための出前で一息ついた後、随時解散となった。

年に2回、避難訓練は行っているが、とても真剣に訓練しているとは思えない状況で、一人のケガ人も逃げ遅れも出さず、信じられない速さで避難を完了できた。見事な避難を成し遂げられた要因に、日中で職員の数が多かった事が挙げられる。消防でも覚悟している事であるが、夜間に自院から出火した場合、ほとんどの入院患者が焼死するであろうとの見通しを持っているそうである。今回の事は、誠に運が良かったとしか言いようがない状況であった。だが、普段以上のものを出せる「火事場の馬鹿力」と、いざと言う時の連携の良さは、何にも増して重要であると認識した今日の不時の出来事であった。

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食べる事、旅行、飛行機関連
自己紹介:
某医療機関に勤務する、メタボな食いしん坊です。
もともと民間旅客機・軍用機を含む航空機全般が好きでしたが、2006年の4月から陸マイラー(時々空マイラー)生活を始めた、もっぱらJALマイラーです。

   保有JALマイル
合算:76,381マイル
私の分:76,381マイル
奥さん分:0マイル
2021年2月15日現在

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2010/1/11:50,000マイル
2011/1/15:70,000マイル
2011/11/1:60,000マイル
2012/9/10:40,000マイル
2015/1/17:100,000マイル
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2018/4/23:30,000マイル
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